子どもの目を通したインド貧民街の現実
画面から飛び出さんばかりの悪ガキぶり


3歳のビラルは忙しい! 洪水になった路地で水遊びをしたり、目の見えない両親の手をとって通りを渡ったり、弟ハムザをいじめては泣かせる毎日だ。カンカンになった父さんのお仕置きから身を隠すことも知っている。一家が暮らす狭い部屋の外は、路地が入り組むスラム街。カメラはビラルを追いかけ、音と光が氾濫する世界へと私たちを誘う。

目の見えない両親の子育て
それでも生きることは素晴らしい


ともに幼い頃に目が見えなくなったビラルの両親は、盲学校で知りあい、ヒンドゥーとムスリムの宗教の違いを乗り越え恋に落ちた。妻のジャルナがムスリムに改宗し、夫のシャミンの母親や親せきの住むタルトラ地区に移り住み、子どもたちが生まれた。詐欺にあって金をだまし取られるなど、たくさんの困難が一家を襲うが、障がいをものともせず、長屋のような隣近所との濃いつながりの中で、果敢に愛情深くビラルたちを育てている。

ムスリムのコミュニティ


コルカタは多民族・多宗教が万華鏡のように共存する都市で、特に撮影地の周辺は、キリスト教、ヒンドゥー教、シーク教徒などのコミュニティが隣り合わせて住んでいる。映画の中でも、ヒンドゥーの寺院の鐘が聞こえ、イスラム教でない祈りの声も聞こえてくる。ビラル一家が住む地域はイスラム教で、映画の後半にビラルが泣き叫ぶシーンで施される割礼(少年の性器の一部を切除する)は、親族や近隣住民から祝福されるムスリムの風習である。





温かい友情と優れた映画技術


監督のソーラヴ・サーランギは、「見える世界」と「見えない世界」、二つの世界を自由に行き来できるビラルと生後8カ月のときに出会って魅了され、何度も一家の元へ通い続け、大の仲良しとなっていった。そして3歳になった頃から、自由奔放に動くビラルの明るさと家族のぬくもりを、低い目線の丹念なカメラワークで14カ月に渡って捉えた。160時間もの映像素材を編集するのに1年半以上、たっぷりとかけている。途中段階の映像を見たフィンランドとオランダの映画関係機関が出資と助成を決定し、この秀逸なドキュメンタリー映画が完成した。

世界が選んだドキュメンタリー映画の秀作、
満を持して日本公開


本作は50以上もの国際映画祭に招かれ、15もの賞を獲得。山形国際ドキュメンタリー映画祭2009でも「アジア千波万波・奨励賞」と全国のミニシアターの館主が選ぶ「コミュニティシネマ賞」をダブル受賞。配給会社に贈られるコミュニティシネマ賞の受賞にも関わらず、なかなか日本公開が決まらなかった。それでも、この映画を、ビラルを観客と出会わせたいと願う有志の手でついに日本公開が実現する。


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